この胡桃は、この胡桃である。

宮部金吾、工藤祐舜、須崎忠助「北海道主要樹木図譜」(1920-1930)

宮部金吾、工藤祐舜、須崎忠助「北海道主要樹木図譜」(1920-1930)

そもそも僕が胡桃という木に興味をもったのは、冬芽とよばれる部分のユニークさと、比較的どこででも見つけられる、紹介しやすい題材として興味をもちました。 もともと植物には全く興味が無く、目黒の駒場野公園自然観察舎でおこなわれる駒場野自然クラブでの定例活動に一年以上参加して、植物や自然や食べ物の面白さを色々知りました。観察舎に通い出した頃は、観察舎で紹介される植物を、その他の場所で見つけることは出来ませんでした。観察舎に通って直ぐに長新太の名作絵本「ふゆめ がっしょうだん」や標本で、冬芽のことを教わりました。初夏のシーズンで、冬芽をすごくみたいなと思いつつ冬芽のシーズンオフを過ごし、胡桃の木は無いものか?と一生懸命探しましたが、自宅付近で見つけることはできず、冬芽の形も思うように実物を見つけられず、もんもんとイメージを膨らませていました。その期間に検索したり、菱山忠三郎先生の「樹木の冬芽図鑑」を買ったりして、イメージを膨らませていました。当時は、見たくて見られなくて、とても残念だったけど、いまでは色々調べたりイメージを膨らませていたのがとても良かったようにおもいます。

その後、ある程度、植物の知識と経験できる時間がたって、ある程度わかることも増えました。また、ものを調べる技術もある程度ついて、興味や関心が現在に継続しています。

 

冬芽と胡桃

顔とはどんなものか?と思ったとき、頭の一部の器官だとか、喜怒哀楽の表情を表すとか、何か別のものに似て見えるとか、顔のように見えるけど顔の器官機能はないとか、そのような発想を冬芽を見たとき感じます。一つのことをじっくり見たり、調べるだけでも、思いもよらない世界が広がることがあります。そのような、物の見方、調べ方、感じ方を、胡桃の木について調べてみたいと感じています。

関係あるもの

くるみの木について調べていくと、生態系、くらし、文学、科学、様々な物事に出会いました。

  • 生態系
    • 胡桃の木には、オニグルミ、ヒメグルミ、カシグルミ、サワグルミ、テウチグルミなど種類があり、おなじ胡桃の種類であれ、実のかたちや堅さ、冬芽のかたちなど、かなり違う物もあり、比べると同じ種類には見えないものもあります。
    • 昆虫には、この植物に対してこの虫といった食草という関係があり、探したい虫がある場合、その虫の好む植物をしることで、その昆虫をみつけやすくなることがあります。オニグルミの場合、木には、オニグルミノキモンカミキリやオニグルミノトゲアブラムシなど住み着き、葉には、エゾスズメガの幼虫や、マスダクロホシタマムシ、クルミハムシなど近寄ります。またクルミハムシはカメノコテントウの餌になりやすいです。実は、リスが好んで食べますし、カラスが高いところから落としたり、道路に胡桃の実を置いて、殻を割って食べたりもします
    • オニグルミノキモンカミキリ Menesia flavotecta HEYDEN マスダクロホシタマムシ Ovalisia vivata(Lewis) クルミハムシ Gastrolina depressa BALY カメノコテントウ Aiolocaria hexaspilota(Hope)
  • くらし

    山崎斌「日本固有草木染色譜」(1933) p32

    山崎斌「日本固有草木染色譜」(1933) p32

    • 食材として、胡桃の核果はクルミパンなど様々な料理に使われます。またイタリアの果実酒ノチェロ(ノチーノ)の材料になったり、胡桃のホダ木はナメコを栽培することにも使われます。道具や材料として、材木はいうまでもなく良木の材木として家具などに加工され、果皮は茶色の天然染料の材料として、樹皮は皮細工の材料として籠やザルなど作られ、更に殆どの材木は燃料にもなります。
    • 胡桃の皮籠 6/23 おにぐるみ収穫
  • 文学
    • 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』では、長い時間や歴史の流れをかんじるモチーフとして、くるみの化石を見つけるシーンがあります。
    • 「胡桃割る 胡桃の中に 使わぬ部屋」鷹羽狩行
    • 向田邦子『胡桃の部屋』では、浮気をされた女の気持ちの描写に、先の鷹羽狩行の句が引用されています。

もしも、この世から、胡桃という植物が絶滅したとすれば、昆虫や動物、料理のレシピ、職人技術にも影響がでます。そのとき、胡桃に属性が近い樹木に素材が置き換わったり。失われる生物や技術もあります。

16/11/2012

関係ないもの

オニグルミの冬芽をじっくりと見ていると、帽子を被ったヒトのようにも見えてくるし、羊や猿のような顔にも見えてくる。もちろん、生物学的に関係なく、ヒトから胡桃の木は産まれないし、羊から胡桃の木は産まれません。しかし、デッサンの様な描写でなく、似顔絵のような描写方法、特徴をかんじるポイントが、形が似ていると感じる形同士造形的な関係を感じるときがあります。

selfport (1994) 727x606mm 01/04/2013 727x500mm 15/06/2012 727x606mm 05/04/2013

胡桃の冬芽をみてから、ワクワクの木のエピソードや絵を知ると、冬芽の形がワクワクの木のように見えてくることがあります。しかし、冬芽の造形と、ワクワクの木の形は、なにも関係がありません。

エルラド・ド・ランズブール「悦楽の園」(12世紀末?1205頃) 「シャー・ナーメ」写本ミニアチュア(15世紀頃)

17世紀後半の画家シャルル・ル・ブランの動物観相学の研究によれば、動物の気性やキャラクターを読みとり、人物描写の際に、動物の特徴と人物の顔形を、現在でいうところのモーフィングのように重ねると、人物画モデルの性格も、動物の表情や気性をかさねて考えていたところがある。その考え方を延長できるなら、何か無機物であれ、二つの目ひとつの口を感じる三点の何かがあったとして表情を読みとるとき無機物に動物のような性格や気性を感じてしまうことがある。性格とか何か共通の何かを感じる別々のものに、全く関係性を見いだせないことはあります。

ルブラン-梟 ルブラン-駱駝

雑木・折衷 / 銘木・国粋
日本でもたくさん生えているシナサワグルミの原産は中国。カシグルミは、ペルシャグルミの変種。ヒメグルミはオニグルミの変種。また日本から渡ったクズという植物は、アメリカでは広域で生息しています。
文化でいうところの日本ならではと思われてる様式も、ルーツ的には中国や韓国によりものだったり、明治維新後の国際化や第二次大戦後のアメリカによって捏造された国粋様式であります。国内でしか作られない様式、例えば、歌謡曲、美術の洋画、洋食、洋館、「昭和」の文化と言われるもの、そういうものに一種の国粋性を読まれることもあるのなら、生物環境でいう、日本に生息する外来種や帰化植物も国内独自の生存環境を作っていくことにもそのようなプロセスがあるのでしょう。「君が代」という曲のの出発点は外国人の作曲家のよるイギリス民謡のメロディがルーツといわれます。
注意すべきは、外来種や、舶来文化が、現地を植民地として駆逐するから危険だという話は、必ずしも言いがたく。バランス環境をどうやって組み立てていくか?生態系や文化環境を組み立てていくか?というところがあり、そういうのが長い目で一種のローカルな国産種や国粋文化に繋がってゆきます。カレーライスや、お寿司、ラーメン、トンカツや、カステラのように。

置き換えについて(←後で記述。)

イメージ
このクルミは、このクルミであると感じることが出来るとき、その素材そのものがもつ特徴、周辺に付随する生物や技法や品物、クルミとは関係ないもののクルミを想像してしまうもの。その全てがイメージを作っているように感じます。 あと、もののみかたというものを考えたとき、今回はクルミについて情報の解像度を上げて、調べるだけ感じるだけでも、非常に豊かな世界を見ることができることに気づかされます。それは、地域や、時間、人、物にも同じようなことがいえて、情報の解像度を上げると、感性の豊かさにたどり着けるのではないか?と考えて制作しており、ものごとの豊かさに気づける、みかたを提案したいと考えています。

 

参考文献

(この項、時々、訂正しなおし続けると思います。)

This entry was written by admin , posted on 火曜日 7月 02 2013at 02:07 am , filed under memo and tagged . Bookmark the permalink . Post a comment below or leave a trackback: Trackback URL.

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