図画工作的室内 山内崇嗣初個展

  • 両面コピーでつくられた個展告知の三つ折りビラには、工作用のやまおり(—-)、たにおり(—-)、きりとりせんの指示があり、その通りに組み立てると、作家の顔写真の口がパクパク動かせるようになっている。掲載された作品写真も独特で、「この朱色の格子模様はこの朱色の格子模様である。」などと、人を喰ったタイトルが付されている。「面白そうだな。」という印象を持った。
  • 個展会場に着いてみると、驚いた。一階(“Interior”series, 2000?)の通りに面した大きな窓のカーテンは、作家が日常着用しているシャツ12着をボタンでとめ合わせてつくってある。天井からは学芸会で良く使用される紙テープの鎖が垂れ下がり、部屋の奥では「スミッソンライト」(通称)が、うきうきとしたディスコティックな光線を発散している。また、作家の着古したTシャツがハンガーではなく、ストレッチャーの上に被せられ「脱構築」している。ソファの代わりに、レディメードの絨毯パーツを組み合わせた軟弱な「chairs」があり、腰掛ける観客によって会期中に次第に破壊されていく。本来なら硬質な筈の「ミニマル」な造形が、たおやかに姿を歪め、崩れ落ちていくのである。
  • 二階にあがると、一階とは全く異なる三原色中心のインスタレーション(“This coloredpattern is this colored pattern” series, 1997?)があった。
    平面作品では、柄物生地やテーブルクロスを支持体として、合成塗料、クレヨンまたは油彩で、支持体の模様を拡大した形象が描いてある。立体作品では、数多くのレゴ、ビーズ等を用いて、レゴ、ビーズ等の形を大きく組み上げてある。

  • これらの作品に付された、一見トートロジック(同義語反復的)な、「このうさちゃんはこのうさちゃんです。」等の題名は、フランク・ステラの “You see what you see.”という発言を想起させつつ、実は、「うさちゃんの模様の上にうさちゃんを描く」行為と、「うさちゃんの模様の上にうさちゃんが描かれた」作品の成り立ちを端的に示している。また、描き形造る形象も、本来はミニマルである筈のものが多いのだが、作家はこうした「常識」を見事に覆し、図画工作的手業によって、モアレとイリュージョンを発生させている。
  • その作品は、題名や形象が放つコンセプチュアルな匂いにもかかわらず、あくまでもポップかつキッチュで、美しい。また、テーブルクロスの柄のような抽象画、木枠にシャツを被せた脱構築など、輸入された「西洋美術史」に対して一般大衆が抱くリアリティを共有し、かつ逆手にとっている点でも注目された。
  • ここで山内崇嗣のこれまでの活動を簡単に振り返ってみると、武蔵野美術大学の卒業展で自分の展覧会場として大学構内にプレハブ家屋を運び込んだり、荻野遼介、南川史門らとともに、灰塚アースワークプロジェクト(広島市灰塚町)の作品ホームステイプログラム(数多くの個人宅に作品を設置し、町中をオープン美術館にする試み、1998?)に3年連続で参加したりしている。また、豪華粗品/金沢市民芸術村で「トランプタワー」(通称)を発表、自作プレゼンテーション会では地元学芸員や観客の爆笑を誘い、同時開催のハロルド・ゼーマン講演会では、主催者の困った顔をよそに、講演終了直後のゼーマンに駆け寄って自作ファイルでプレゼンテーションを展開したツワモノでもある。
  • 今回の展覧会は、宣伝経費がほぼゼロ、平日日中のみの開場であったにもかかわらず、評判が口コミで広がり、内外の先端的な美術関係者が多数来場した。
    深瀬コレクションでも、作家による今後の新しい価値創造の可能性を評価して、第2回初個展賞を贈呈し、主要26作品を一括収蔵した。(ちなみに、第1回初個展賞は、ホームドラマを初めて美術作品とした、昭和40年会初の共同制作個展「晴れたり曇ったり」<1999年、ナディッフ>に贈呈し、関連作品、小道具、資料を一括収蔵している。)
    • 深瀬鋭一郎(深瀬記念視覚芸術保存基金主宰)
    • てんひょう/アートヴィレッジ no.5「山内崇嗣/深瀬鋭一郎」P.153 (2000)
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