喫煙室のタイルから

  • 727x1167mm 02/10/2005

    727x1167mm 02/10/2005

    山内崇嗣は、昨年の個展で、「廃墟マニアが観光に出向くように、僕が廃墟なった近現代の美術館で楽しく見学する風景を想像しつつ構成するように、そういう風景ができあがるように展示を構成し作品を制作した。」と語っている。「建築シリーズ」と名付けた一連の作品は、表紙の作品の〈小笠原伯爵邸〉や〈一橋大学〉〈旧三重県庁舎〉〈住友銀行広島支店〉など 明治、大正期に作られた洋風の建築物をテーマにしている。また高橋由一、岸田劉生やクールベといったやはり明治、大正期の画家たちの作品の構図等を意識的に取り入れた一連の作品もある。今存在する近現代美術館が廃墟になるのは、100年先のことだろうか?彼がイメージした、その時そこに展示されている作品が、今から100年も前の建築や絵画を取り込んだ作品であることは、我々の時代の芸術が、ロスト・ジェネレーションならぬ、ロスト・アートであると突き付けられているような気もしないではないが、彼の意図するところは別にあるのであろう。表紙の作品は、〈小笠原伯爵邸〉である、と言われて合点がいくひとは、建築マニアに違いない。1927年、小笠原長幹伯爵の邸宅として、現在の新宿区河田町に建てられたこの洋館はスパニッシュ様式であり、スペイン瓦や特製タイルの装飾が施されていることが特徴的で目をひく。特に円形の喫煙室は国内では珍しいイスラム様式の装飾がなされている。このシガールームの上部の円形を覆うタイルの装飾模様を山内はクローズアップして描き、その部分部分をところどころ再び、白色の絵具で覆い隠している。しかし画面に残った模様の断片は、廃墟に埋もれている既視観のある遺物などではなく、あたかも初めて目にするような魅力ある形態として観るものの元に戻ってくる。そこで観者は気付くだろう。決して古(ルビ:いにしえ)のものへの賛美として100年前のものを辿り直しているのではなく、過去も現在も未来の境界も無化しつつ、絵画に何ができるかを実験しているということに。
    This entry was written by admin , posted on 木曜日 2月 12 2009at 07:02 pm , filed under recommend . Bookmark the permalink . Post a comment below or leave a trackback: Trackback URL.

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